中卒先生の神(自分)のお言葉(寝言)










2018年4月


 死ね死ね団が企画するライブは新宿ロフトで行われる。基本的には月に一回、一年間毎
月行われる。大概、死ね死ね団がトリで登場して茶番を巻き起こし、それが終わると全ラ
イブ終了。そのあと、その日の全出演バンドのメンバーとスタッフ、関係者、肉体関係者、
ペットのライオンや虎、ロボペチャ、他にも裸にエプロン姿の髭面のムキムキ男性コンパ
ニオンなども混じり、そのまま新宿ロフトで、ロフトのフロアにテーブルが並び、打ち上
げが行われるのだ。
 死ね死ね団企画のライブの打ち上げは独特で、ひと言で言うと“作り話をする席”、“嘘
をつく場”である。そう、出席している人間が我こそはと競って互いに作り話をし、根も
葉もないとっておきの大嘘をつき合うのだ。この打ち上げを人は「嘘合戦」と呼び、猫は
「にゃにゃにゃーな」と呼ぶ。
 誰もが妄想を語り、誰もが起きながら寝言を言う。
 あるバンドのベースは「自分は赤ん坊の頃に飛行機事故に遭い、森に墜落したが、奇跡
的に自分一人だけ助かり、狼に育てられた」、狼の間で呼ばれていたウルフネームは「ジャ
ック」だったなどと得々と語る。語るだけではない。目の前で四つ足歩行のコツなども自
ら実際にやってみせ、丁寧に教えてくれる。「ガルルルル」と声を出しながら。
 あるバンドのドラムは「自分はあのSMAPの元ベースで、当時は近藤俊彦という芸名
で活動していたが、ある日天からお告げがあり、神の声が聞こえたのでくだらねえアイド
ルバンドは脱退し、出家してドラムに転向した。今は本名の阿久津権三郎を名乗り、転向
してからは一切ドラムの練習などせず、頭の中でひたすらイメージトレーニングをした。
じつはスティックを持つのは今日のステージが初めてなんです」と言っていた。SMAP
ってバンドだったかな? もうあんまり記憶にないなぁ。
 またあるバンドのギターは、ギタリストとカレー屋の二足の草鞋を履く。「孤児院育ちで、
この世のあらゆる犯罪に手を染め、女を次から次へとソープへ沈め、悪行を重ねて手に入
れた金でカレーのCOCO壱番屋を起業した」と言っていた。現在、社長の椅子にふんぞ
り返りながらも「貧しさで音楽をやり続けることを諦めて欲しくない」と貧乏なミュージ
シャンに楽器や機材を寄付。ライブハウスやコンサートホールなども作る。話によると
10代の頃に、大晦日の紅白歌合戦で初めて観た死ね死ね団の演奏に感激したそうだ。おお、
それで貧しいミュージシャンに楽器を寄付か・・・うん、いい作り話じゃないか。
 誰もが妄想を悪びれずに真顔で語る。自分の出生の恐ろしい秘密。最近知ったじつの父
の話。18年間知らなかった、すり替わっていた自分の娘の話。自分が歩んで来た人生を原
型もないくらい美化しねじ曲げ、誇張して語る。

 いやあ、出てくる、出てくる、嘘のオンパレード。人間、その気になればいくらでも嘘
がつけるもんなんだね。あれも嘘。これも嘘。俺も嘘。キミも嘘。全部嘘。嘘無限大!
 そうそう、嘘といえば、普段から常習的に嘘ばかりついている天性の嘘つきのケムール
星人。嘘をつく打ち上げこそは、その能力を発揮する場のような気がするんだけど、気の
せいだった。だってケムール星人がつく嘘は、「昨日の夜、道端で10円拾ったんだ」とか
「今日歩き始めた第一歩目は右足だったね」とか、どーでもいい嘘ばかり。なんの深みも
信憑性もなく、且つ幼稚過ぎて誰も聞いてくれないんだよね。孤独な知恵おくれ。「10円
拾った」なんてわざわざ嘘にする必要もないし、話す必要もないだろ。出てけよ、地球か
ら。とにかく、耳を塞ぎたくなるような絶望的につまらない話ばかりしている。頭が悪い
と作り話すらできない。
 それぞれがその場で名乗っている名前も嘘なんだよね。俺はよく「佐山佐吉」と名乗っ
ている。えっ? そんな名前を名乗ってもみんなに中卒だってバレているって? いや、
それがバレないんだな。なぜかというと、俺は打ち上げ直前に毎回、整形をするんだ。七
つの顔を持つ男。打ち上げのためにいちいち整形している。後日元の顔に戻すけどね。そ
のせいで俺はこんな歪んだ顔をしているわけ。顔だけじゃなく精神も、物の見方もねじ曲
っているけどね。
 俺みたいにわざわざ整形までするアンポンタンは少ないけど(たまにいる)、他の人も誰
だかわからないように仮面やアイマスクみたいなものをつけているね。仮面舞踏会みたい
な感じで皆素顔を隠しているんだ。ステージ衣装よりもきらびやかな衣装(ライブよりこち
らこそが本番。社交界、政財界へのデビューの場だと考える者もいる)に着替え、高価な装
飾品を身にまとっている。
 うーん、なんだかライブより力が入っているような気がするなぁ。どういうことだ?
 毎回、まず始めに全員で涙を流しながら国歌斉唱をするのね。打ち上げは神聖なものだ
から。次に死ね死ね団の「ビンボウくん」を輪唱するわけ。「ビンボウ♪」「ハイ!」とか
言って。みんな歌うよ、大声で。お腹から声を出して。ボーカルは皆、ライブより声が出
ているんじゃないかな。それが終わるとね、みんなの顔つきが突然凶悪に、鬼の形相にな
り、同時に一斉に嘘をつき始めるのね。嘘の総攻撃が開始されるの。人間、悪いことをす
る時って、悪い顔になるもんなんだね。でもね、あの国歌斉唱する時ばかりは、その場に
いる者の心が一つになるような気になるんだよなぁ、なぜか。いや、ホントに。何か熱い
ものがグッとこみ上げてくる。たぶんみんなそんな気持ちだと思うよ。あの時の涙だけは
嘘じゃないと思うよ。
 うーん、ナイスなことしてくれるじゃないの、死ね死ね団。
 まあとにかく、死ね死ね団企画のライブの打ち上げは、以上のような感じで魔法のよう
なひと時を過ごす、と。出たことがある人は、みんな口を揃えてそう言っているよ。





中卒